お稽古を始めたばかりの頃、何が一番難しかったかと聞かれたら、私は迷わず「お辞儀」と答えると思います。
お辞儀なんて、日常でもやっていること。最初はそう思っていました。でも、茶道のお辞儀は、ただ頭を下げるのとはずいぶん違うんですね。
今日は、長年お稽古を続けてきた私なりに、茶道のお辞儀について書いてみようと思います。まだ完璧にできているとは言えないのですが、それだけに気になって調べたり、師匠の動きをよく観察してきたことでもあります。
「真・行・草」という考え方
茶道では、お辞儀に「真(しん)」「行(ぎょう)」「草(そう)」という三つの種類があります。
真が一番丁寧で深いお辞儀。草が軽めのお辞儀。行はその中間、といったイメージです。
書道でも「楷書・行書・草書」という言葉がありますね。あれと同じ考え方なんです。茶道の世界では、こうした格の違いがいろんな場面に出てきます。道具にも、点前にも。面白いですね。
師匠(義母)は「お辞儀は気持ちを伝えるもの。形だけ作っても伝わらないよ」とよくおっしゃっていました。それを聞くたびに、形と心の両方が大事なんだ、と思っていました。
深さはどのくらい?
真のお辞儀は、上体をおよそ三十度ほど前に傾ける深いお辞儀です。
行は十五度から二十度くらい。草はもう少し軽めで、十度前後という感じです。
と書いてみましたが、正直なところ、稽古の場では角度を意識して測っているわけじゃないですよね。感覚で覚えるしかない部分が大きいです。それが難しいところでもあり、長年続けても飽きない理由でもあるかもしれません。
大事なのは、ゆっくりと、静かに下げること。素早くペコッとやるのとは全然違います。
手の位置も大切です。畳の上でお辞儀をするときは、両手を畳に添えるようにして下げます。このとき、手先がバラバラにならないよう、指をそろえて。私は最初、指がいつもバタバタしていて、何度も直されました。
どんな場面でどのお辞儀を使う?
真のお辞儀は、床の間の掛け軸やお花に敬意を表すとき、または正式なご挨拶の場面などで使います。
行は、お客様からお茶を受け取るとき、亭主と客が向き合う場面など、お稽古の中でよく出てくるお辞儀です。
草は、比較的軽いご挨拶の場面や、亭主と客がちょっとしたやりとりをするときに使います。
でも、「ここは真で」「ここは行で」と決まり事として覚えようとすると、混乱してしまうこともあります。最初はとにかく、その場の雰囲気や相手への気持ちを大切にすることから始めるといいのかもしれない、と私は思うようになりました。
師匠はお点前の途中、お辞儀のたびに少し間(ま)をおいていました。焦らず、丁寧に。その静かな動きがとても美しくて、今も目に浮かびます。
目線のことも忘れずに
もうひとつ気をつけたいのが、目線です。
お辞儀をするとき、頭だけ下げて目線が上を向いていると、なんだかちぐはぐな感じになってしまいます。上体を傾けると自然と視線も下がりますが、それが自然にできるようになるまでに少し時間がかかりました。
鏡の前で練習したこともあります。自分のお辞儀って、自分ではなかなか見えないものですね。お稽古仲間に「もう少し深く」と言われて、はじめて気づくことも多くて。
お辞儀ひとつで、その人の茶道との関わり方が伝わるような気がします。そう思うと、いつまでも大切にしたいものだなと感じています。
ひざを傷めてからは、正座がつらくなってしまいましたが、それでもお辞儀のときの上半身の動きは変わらずに続けられています。今度のお稽古でも、またゆっくり確かめてみようと思います。

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