お稽古に通い始めた頃、先生のお部屋に入るたびに「あれ、今日は違う」と思うことがありました。
夏のあいだは部屋の隅に小さな台があって、そこに炭が置かれている。でも冬になると、畳の真ん中がぽっかり開いていて、そこに炉が切られている。
最初はどうして場所が変わるのかわかりませんでした。先生に聞くと、「夏は風炉、冬は炉。それだけです」とおっしゃって。そのひとことで納得したふりをしていたのが、今となっては懐かしいです。
風炉と炉、ざっくり言うと
茶道では、お湯を沸かすための道具として「風炉(ふろ)」と「炉(ろ)」の二種類を使います。
簡単に言うと、風炉は畳の上に置く道具、炉は畳の下に切り込んだ穴のことです。どちらにも釜を据えてお湯を沸かすのですが、使う季節が違います。
風炉を使うのは5月〜10月。炉を使うのは11月〜4月。ちょうど一年の半分ずつです。
今は八月ですから、今まさに風炉の季節のまっただ中ですね。
なぜ季節で使い分けるのか、義母から聞いた理由
義母が先生だったので、こういうことをよく聞けたのは幸いでした。
「夏に炉を使ったら、お客様が暑くて仕方がないでしょう」と義母は言っていました。
そうなんです。炉は畳に切り込んだ穴の中で炭を燃やしますから、熱が部屋の中に広がりやすい。それが冬には温かくてちょうどいい。でも夏に同じことをしたら、お客様に申し訳ない。
だから夏は風炉を使う。風炉は移動できる道具ですから、部屋の一隅に置いて、少しでも熱がお客様に伝わりにくいようにする。それが風炉の本来の意味合いです。
お茶の世界の「客をもてなす」という心が、道具の使い分けにまでしっかり表れているんですね。気がつくたびに、なるほどと思います。
11月は炉開きといって特別な日
10月まで風炉を使い、11月になると炉に切り替わります。この最初の炉の日を「炉開き(ろびらき)」と呼んで、茶道の世界では一年のうちで大切な節目とされています。
茶道のお正月、とも言われるくらいです。
私も毎年、炉開きの日が近づくと少し気持ちが引き締まります。風炉の季節から炉の季節へ。点前の手順も少し変わりますし、道具の配置も違う。慣れているようで、やはりその年ごとに「あれ、こうでしたっけ」と手が止まることがあります。
45年やっていても、そういうものです。恥ずかしいような、でもお茶ってそういうものかなとも思います。
風炉と炉でお点前の手順は変わるの?
これもよく聞かれる疑問です。
はっきり言うと、手順は変わります。釜を据える位置が違いますし、柄杓の扱いや湯返しの仕方など、細かいところで差があります。
でも根本の流れは同じです。お湯を沸かして、茶碗を温めて、お茶を点てて、お客様にお出しする。その大きな流れは変わりません。
お点前の基本の流れについては、以前に書いた記事もよかったら参考にしてみてください。
→ お点前とは?初心者向けに流れをやさしく解説
風炉と炉の切り替えの時季は、初心者の方が特に戸惑うところだと思います。「先月と手順が違う」と感じたら、それは気候と道具が変わったサインですから、先生に確認してみてください。
私も毎年この時季を繰り返しながら、少しずつ身体に染み込んでいくような気がしています。まだまだですが、それがまたお稽古の面白さでもありますね。

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