お稽古を始めたばかりの方に、よく聞かれることがあります。
「先生、茶碗の中に入っているあの白い布は何ですか?」
これが茶巾(ちゃきん)です。
小さな白い布なのですが、お点前の中でとても大切な役割を担っています。私も最初は「ただの布なのに、なぜこんなに丁寧に扱うのだろう」と思っていました。45年経った今では、その意味が少しわかるような気がします。
茶巾とは、茶碗をぬぐうための白い布です
茶巾は、茶碗の内側や口縁(こうえん)をぬぐうための布です。お点前の中で、茶碗に湯を注いで温めた後、その湯を捨てて、茶碗の中を拭くときに使います。
素材は麻か綿が多く、色は白。使い続けると少し黄ばんでくることもありますが、できるだけ清潔な白を保つことが大切とされています。
師匠からは「茶巾は茶碗の着物だと思いなさい」と言われたことがあります。その時は「着物?」とぴんとこなかったのですが、茶碗を大切に扱うための布という意味だったのだと、後になって気づきました。
お点前の前は、茶碗の中に畳んで入れておきます
お点前が始まる前、茶巾は茶碗の中に畳んで入れられています。あの状態を「茶巾を仕組む」と言います。
畳み方には決まりがあります。縦に三等分に折って、また折って、小さな長方形にします。これを「茶巾たたみ」と呼びます。
私が最初に苦労したのが、この畳み方でした。家で何度練習しても、いざお稽古で先生に見ていただくと「折り目が乱れている」と言われました。指先でそっと折るだけなのに、どうしてこんなに難しいのかと、何度も溜め息をついたものです。
畳み終わった茶巾は、茶碗の中に縦長に置きます。そのとき、畳んだ向きにも決まりがあります。表千家では、茶巾の折り目(端の部分)が左手前にくるように置くと習いました。細かいですが、こういったところにも流派の作法が宿っています。
薄茶と濃茶で、茶巾の扱いが少し変わります
薄茶(お薄)と濃茶(お濃)では、茶巾の使い方が少し違います。
薄茶のお点前では、茶碗を温めた後に内側をさっとぬぐいます。動きは比較的シンプルで、私も最初に覚えたのはこちらです。
濃茶のお点前になると、茶碗のぬぐい方がより丁寧になります。茶巾を開いて茶碗全体を包むように扱う場面もあり、最初はなかなかうまくできませんでした。
道具について知っておくと、お点前の流れが少し見えやすくなります。お点前の基本的な流れについても、別の記事でご紹介していますので、よかったらご覧ください。
お稽古が終わったら、きれいに洗って乾かします
お点前で使った茶巾は、お稽古の後に水屋(みずや)で洗います。
洗い方は、ぬるま湯でそっとすすぐだけ。ごしごし洗うと布が傷みます。洗ったら形を整えて、半乾きのうちにまた茶巾たたみにして乾かします。そうすると折り目がきれいにつくのです。
この「洗って、たたんで、乾かす」という一連の後片付けも、水屋仕事の一部です。お点前は華やかに見えますが、その前後の準備と後片付けの積み重ねがあってこそだと感じます。
茶巾とよく似た道具に、懐紙(かいし)があります。こちらはお菓子をいただくときに使う紙で、茶巾とは役割が違います。懐紙の使い方についてはこちらでご紹介しています。
茶巾は小さな白い布です。でも、茶碗をぬぐうその一動作に、何十年分かの稽古が詰まっているような気がします。私はまだまだ途中ですが、またお稽古で丁寧に確かめてみようと思います。

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