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菊(重陽)|白露の頃に

菊(きく)と重陽(ちょうよう)は、九月のお茶で結びつく言葉です。ただ、「重陽のお茶」と聞いて、特別なお点前を覚えなければならないのかしら、と身構える必要はありません。重陽は九月九日の節句の名前です。その日を思い、菊に託された長寿の願いをお茶に添えます。

私は、この季節を覚えるなら「着せ綿」という言葉も一緒に知っていただきたいと思います。菊の花に綿を着せる。少し不思議な取り合わせですが、九月のお菓子にも残っている習わしです。

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菊に綿をかぶせて、一晩待つ

着せ綿は「きせわた」と読みます。重陽の前夜に菊の花を真綿で覆い、夜露と花の香りを移します。翌朝、その綿で顔や身体をぬぐい、長寿を願ったと伝わっています。御菓子司 香月「着せ綿」

花を摘んですぐ使うのではなく、夜の間、露を含むのを待つのですね。

私は、この待つところに心が向きます。綿をかぶせた花はどのような姿だったのでしょう。朝になって取り上げたら、どのくらい香ったのでしょうか。実際にしてみたこととしては書けませんが、思い浮かべるだけでも、菊との付き合い方が今よりずっと細やかだったように感じます。

長生きへの願いを、花の露に託す。昔の人にとって、菊は眺めて楽しむだけの花ではなかったのでしょうね。

重陽は、九が重なる菊の節句

重陽という名前は、昔の陰陽の考え方から来ています。奇数を陽の数とし、一桁で最も大きい九が、月と日に重なる。それで九月九日を重陽と呼びます。菊を愛でる節句でもあり、「菊の節句」ともいいます。如水庵「長月の茶席菓子」

読み方だけでは中々頭に入りませんが、九が二つ並ぶ日と思えば、覚えやすいですね。

その重陽にちなむお菓子の一つが、先ほどの着せ綿です。如水庵では、煉切に薯蕷あんをのせた姿で表しています。花を覆う綿まで、お菓子になるのです。如水庵「長月の茶席菓子」

菓子の名前を聞いても、何を表しているのかわからない時があります。着せ綿も、字だけなら衣服に関係するものに思えるかもしれません。由来がわかると、上に添えられた白いものを見る楽しみが増えます。

食べる前に、ほんの少し眺めていたくなりますね。

風炉の一服に、重陽を添える

白露の頃も、まだ風炉でお茶を点てる季節です。重陽を迎えるからといって、それだけでお点前の手順が変わるわけではありません。節句にちなむ菓子を添えることでも、その日を大切にする気持ちは伝わると思います。

たとえば私なら、着せ綿のお菓子をいただいてから、薄茶を一服。そのような重陽のお茶を考えます。お点前を始める前に、菓子の名前と、菊の露を含ませた綿の話を少し伝えられたらよいですね。長く話すと、お菓子を前にお待たせしてしまいますから、そこは短く。

九月九日の頃にこの菓子を選ぶのは、重陽の習わしそのものを表しているからです。菊の花に綿をかぶせて翌朝を待つという話が、その日へつながっています。

長くお茶を続けていると、季節の名前を聞くだけで済ませてしまいそうになります。けれど、初めてその菓子をいただく方には、白い綿の意味が一つわかるだけでも、印象が違うのではないでしょうか。

重陽と菊。そして、菊を覆う着せ綿。

今年はその小さな白い姿を思いながら、ゆっくり一服いただきたいです。

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