お稽古を始めたばかりの頃、師匠から「今日は水屋の仕事を教えますよ」と言われて、少しどきどきしたことを覚えています。
お点前が始まる前に、あれほどの準備があるとは思っていませんでした。
水屋とはどんな場所か
水屋(みずや)とは、茶室に隣接した準備室のことです。台所や勝手口に当たる場所といえばわかりやすいでしょうか。
茶碗を洗ったり、お湯を沸かしたり、道具を整えたりと、お点前の準備をすべてここで行います。お客様の目には触れませんが、水屋があってこそ、茶室での時間が成り立っています。
茶道を習い始めた方がよく「お茶会に出てみたけれど、準備している人たちが見えなかった」とおっしゃいます。その準備をしているのが、水屋仕事をしている人たちです。
水屋仕事の内容
水屋仕事の内容は、場の規模によっても違いますが、おもに次のようなことをします。
茶碗や茶筅、棗(なつめ)などの道具を清め、所定の場所に並べる。お湯を沸かして水差しに冷水を入れる。お菓子を懐紙に乗せて準備する。炭をおこして釜にかける。
書き出すとあっさりしていますが、実際にやってみると、一つひとつの手順が思ったより細かいのです。
たとえば茶筅は、使う前に水に浸しておく必要があります。穂先が柔らかくなり、折れにくくなるためです。こういった小さな気遣いが、水屋仕事にはたくさん詰まっています。
茶筅の扱い方については、以前こちらの記事で少し書きました。合わせて読んでいただけると嬉しいです。
師匠から教わったこと
師匠(私の場合は義母です)は、水屋仕事についてよくこう言っていました。
「水屋がきれいだと、お点前もきれいになる」
最初は「そういうものか」と思っていましたが、長く稽古を続けるうちに、その言葉の意味が少しずつわかってきました。
道具を雑に扱って水屋に置いておけば、次に使うときに不具合が出たり、焦ったりすることがあります。逆に、一つひとつを丁寧に扱って、きちんと置いておけば、点前もすっとつながります。
水屋の状態が、そのまま点前に出てくるのだろうと思います。
見えないところにこそ丁寧さを
お茶会では、お客様は水屋の中を見ることはありません。それでも、水屋仕事をする人たちは、見えないところでも手を抜かずに準備します。
この「見えないところを丁寧にする」という考え方は、茶道全体に通じているように思います。お点前の一つひとつの動作も、「見られているから綺麗にする」のではなく、道具への敬いの気持ちが自然と形になるものだと、師匠はよく言っていました。
お点前の流れについてはこちらの記事でも書いています。水屋仕事と合わせて読むと、お茶会全体の流れが少し見えてくるかもしれません。
私の失敗談
稽古に慣れてきた頃、師匠のお茶会で水屋仕事をお手伝いさせていただいたことがあります。
その日、少し遅刻してしまいまして。到着したときにはすでに他の方が準備を進めていて、私はあわあわしながら足りないところを補う形になりました。
終わった後、師匠に「あなた、遅かったわね」と一言。
それだけでした。でも、その一言がずっと残っています。水屋仕事は、時間の余裕があってこそ丁寧にできるのだということを、その日から意識するようになりました。
今でも、準備には早めに取りかかるようにしています。ひざの具合が良くない今は、以前より動きがゆっくりになりましたから、なおさらです。
お稽古で少しずつ覚えるもの
水屋仕事は、最初から完璧にできるものではありません。何度もお手伝いをするうちに、どの道具がどこにあって、何を先にやるべきかが、体で覚えられていきます。
稽古を始めた方がよく「見ていると簡単そうに見えるのに、やってみると手が止まる」とおっしゃいます。私も同じでした。今でも、新しいお茶会の場では「ここの水屋はどうなっているんだろう」と確認することがあります。
水屋仕事も、お点前と同じで、繰り返すうちに少しずつ自分のものになっていくのだと思います。

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