柄杓とは、お湯や水を汲むための道具です
柄杓(ひしゃく)とは、長い柄の先に水をすくう器がついた道具です。神社の手水などでも見かけますね。茶道では主に竹製のものを使い、釜のお湯を茶碗へ注いだり、水指(みずさし)の水を汲んだりします。お茶を点てるときだけでなく、茶碗を温めるときや、釜に水を足すときにも出番があります。
お稽古で、初めての方から細長い道具の名前を聞かれたことがあります。長く使っている私には見慣れた姿でも、初めて見る方には不思議な形なのでしょうね。竹の細い柄と丸い器。それだけのようでいて、お湯を汲み、運び、注ぐための形になっています。
茶碗をすすいだ湯水を受ける建水(けんすい)と、湯水を汲む柄杓は、役目が違います。黒い建水のそばに竹の柄杓がある姿が、私は好きです。華やかではありませんが、お点前を支える大切な道具なんですね。
合・柄・切止の名前を知る
湯水をすくう丸い部分を「合(ごう)」、手で持つ細長い部分を「柄(え)」といいます。そして柄の手元側の端が「切止(きりどめ)」です。「切り止め」と書くこともあります。三つの名前を覚えると、先生から持つ位置や向きを教わるときにも、どこを見ればよいかわかりやすくなります。
切止は、別の部品がついているわけではありません。竹の柄の端を切り、仕上げた部分です。柄には節もあります。合の大きさだけでなく、柄の長さや節の位置、切止の削り方まで見ると、一本の竹の道具にも細かな違いがあるとわかります。
名前の似た「茶杓(ちゃしゃく)」は、抹茶をすくう小さな匙です。柄杓は湯水、茶杓は抹茶。同じ竹の道具なので、初めは名前が混ざるかもしれませんが、何をすくうものかと結びつけると覚えやすいと思います。
風炉用と炉用は、どこが違うのでしょうか
茶道では、基本的に五月から十月は風炉(ふろ)、十一月から四月は炉(ろ)を使います。畳の上に据える風炉と、畳を切った炉では、釜の位置や大きさ、お湯を汲むときの手の高さが変わります。それに合わせて柄杓も替えます。一般に炉用の合は風炉用より大きめです。表千家茶道教室・薫風会の説明でも、この大きさの違いが紹介されています。
見分けるときに確かめたいのが切止です。通常、風炉用は竹の内側の「身」のほうを、炉用は外側の「皮」のほうを斜めに削いであります。「風炉用は斜め、炉用はまっすぐ」という違いではないんですね。茶道具店・みのる園の商品説明にも、削る側の違いが記されています。
柄の長さにも違いはありますが、「長いから風炉用」「短いから炉用」とだけ覚えるのは避けたいものです。節の位置も、それだけで季節を決める目印にはしないほうがよいと思います。炉・風炉兼用の品もありますので、切止と合の形、商品の用途表示を一緒に確かめます。
私もお稽古を始めたころ、風炉用と炉用を取り違えたことがあります。季節が替わるときは、手に取る道具も改めて見るよい機会ですね。買い求める場合も、今習っているお点前で使うものを先生に確かめてから選ぶと安心です。
持ち方と、釜に預けるときの扱い
初めのころは、細い柄を落とさないかと緊張しました。湯の量も中々つかめませんでした。合に汲んだ湯を毎回すべて茶碗に入れるわけではなく、茶碗を温めるのか、お茶を点てるのかで必要な量が違います。お茶を点てるときは、抹茶の量や濃茶・薄茶の違いも関わります。合一杯を、そのまま一服分と思わないことですね。
柄を強く握りしめるより、湯水の入った合が傾かないように支え、注ぐところまで静かに運びます。持つ指の位置や持ち替えは、文章だけでは伝えにくいところです。手元ばかりを見ていると、合のほうが不安定になることもあります。先生の手を見て、自分の合の向きも確かめながら習うのがよいと思います。
柄杓を釜にかけておくことを「釜に預ける」といいます。釜の口に合をかける扱いがありますが、釜の蓋や風炉の縁へ自由に置くという意味ではありません。また、蓋置は釜の蓋だけでなく、柄杓を置くためにも使う道具です。置く場所はお点前の場面によって変わります。裏千家の茶道具入門でも、蓋置の二つの役目が紹介されています。
「置き柄杓」「切り柄杓」「引き柄杓」という言葉もあります。柄杓を釜に預けるときの手の扱いを表しますが、流儀によって違います。裏千家では三つの扱いがあり、単に柄を引いたり、手前へ切ったりすればよいわけではありません。茶道会館の割稽古動画は裏千家の例です。私は表千家ですので、別の流儀の説明をそのまま重ねず、お習いの先生の教えを優先してください。
竹の風合いと、使ったあとの手入れ
竹の茶道具には、白っぽい晒竹(さらしだけ)や、煤を受けて飴色から濃い色になった煤竹(すすだけ)など、素材の表情を楽しむものがあります。白い竹にはすっきりした清潔感があり、煤竹には落ち着いた風合いがありますね。ただ、煤竹と晒竹が柄杓の代表的な二種類、という分け方は適切ではありません。茶杓など、ほかの竹の道具の説明と混同しないようにしたいところです。
柄杓を選ぶときは、色の好みだけでなく、用途や作りを見ます。合に割れがないか、柄との接合部が緩んでいないかも大切です。手に馴染んだものには愛着が湧きますが、湯が漏れたり、柄がぐらついたりする状態なら、そのまま使わず先生や道具店に相談します。
使い終わったら汚れを落とし、柔らかい布で水気を拭き取ります。直射日光を避け、風通しのよいところで十分に乾かしてからしまいます。竹は急な乾燥にも気をつけたい素材ですが、だからといって湿ったまま箱に納めるのもよくありません。暑く湿気の多い時季は、合の内側や接合部に水気が残っていないか、ひと呼吸おいて確かめたいですね。
義母の道具は長く使われていました。静かに扱い、使ったあとも気にかける。その積み重ねだったのだろうと思います。柄杓を乱暴に置くと、お点前全体が落ち着かなく見えるものです。大切に扱うというのは、しまうときだけのことではないのでしょうね。
よくある質問
柄杓は、お茶を点てるために必ず必要ですか? 釜から湯を汲むお点前では使います。家で一服楽しむだけなら、湯を注げるものがあれば点てられます。習うお点前に合わせて道具を揃えるとよいと思います。
風炉用と炉用を一本で兼ねられますか? 兼用として売られている柄杓もあります。ただ、お稽古で使ってよいかは先生に確かめてください。専用のものを揃える場合も、長さだけで判断せず用途表示を見ます。
お湯を汲む量は、いつも同じですか? 同じではありません。茶碗を温めるときと、お茶を点てるときでは違います。初めは量と所作を一度に覚えようとせず、その場面で必要な量を確かめるとよいですね。
まとめ
柄杓は、釜と茶碗、水指をつなぐ道具です。湯水を汲むという役目は素朴ですが、季節による形の違いや、静かに扱うための所作まで知ると、細い竹の柄も違って見えてきます。長くお茶を続けていても、使い慣れたつもりの道具を見直すことは大切だと思います。
次のお稽古では、先生と一緒に柄杓の切止を一度確かめてみてください。どちら側が削られているのか。小さなところを実物で見ると、風炉と炉の違いも覚えやすくなるのではないでしょうか。

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