先日のお稽古で、初めてお茶の世界に入られた方に「あの細長いものは何ですか?」と聞かれました。
釜の横に静かに置かれている、竹の柄のついた道具のことです。柄杓(ひしゃく)と言います。
長年お稽古をしていると当たり前になってしまって、気にもしなくなるのですが、言われてみればあの形、初めて見たら不思議かもしれませんね。今日は柄杓のことを少し書いてみようと思います。
柄杓とは、お湯を汲む道具です
柄杓は、釜の中のお湯を茶碗に注いだり、水差しから水を汲んだりするときに使う道具です。竹でできていて、細長い柄(え)の先に丸い合(ごう)という部分がついています。合がお湯や水をすくう椀の部分ですね。
漆黒の建水のそばにそっと置かれた姿が、なんとも茶室らしくて好きです。
建水についてはこちらの記事もどうぞ。
風炉用と炉用、形が少し違います
柄杓には、風炉(ふろ)の時季と炉(ろ)の時季とで、形が違うものがあります。
風炉は5月〜10月、炉は11月〜4月が基本です。季節によって使い道具が変わるのはお茶の世界の面白いところですね。詳しくは風炉と炉の違いについての記事もご覧ください。
柄杓の違いは、主に合の大きさと柄の長さにあります。
- 風炉用:合が小さく、柄が長め。風炉は床に置く小ぶりな釜を使うので、少し離れたところからお湯を汲む形になります
- 炉用:合が大きく、柄が短め。炉は畳を切って床に埋め込んだ釜なので、手元に近い分、柄が短くても扱いやすいのです
私がお稽古を始めたころ、風炉用と炉用を混同してしまったことがあります。師匠にそっと「それは炉の柄杓よ」と言われて、顔が赤くなりました。今でも思い出すと少し恥ずかしいです。
切り止めを見ると、季節がわかります
柄杓には「切り止め(きりどめ)」と呼ばれる部分があります。柄の端っこ、竹を切り落とした部分のことです。
この切り止めの向きで、風炉用か炉用かが見分けられるというのが面白くて。
- 風炉用:切り止めが斜めに切られていて、節が柄の中間あたりにあります
- 炉用:切り止めが真っ直ぐで、節の位置が柄の上のほうにあります
師匠から「切り止めを見ると季節がわかるのよ」と教えていただいたとき、そういうところにまで意味があるのかと、しみじみ感心しました。お茶の道具はどれも、何気ない細部に意味が宿っているものですね。
柄杓の扱い方、最初は緊張しました
お点前で柄杓を持つとき、最初はとても緊張しました。あの細い竹の柄、落とさないかと気になって。お湯を汲む量の感覚も、はじめのうちはなかなかつかめませんでした。
多く汲みすぎると茶碗があふれるし、少なすぎると抹茶がうまく溶けない。身体が覚えるまで、ずいぶんかかりました。今でも「あ、少し多かったかな」と思うことがあります。
柄杓は、釜に預ける(かけておく)ときの角度にも決まりがあります。勢いよく置くのではなく、そっと、静かに。その一つひとつの所作がお点前の中にあります。
竹の素材もいろいろあります
柄杓は竹でできているのが基本ですが、産地や素材によって少し雰囲気が変わります。よく使われるのは煤竹(すすだけ)や晒竹(さらしだけ)です。
煤竹は古い建物の煤(すす)を吸って飴色になった竹で、しっとりとした風合いがあります。晒竹は白っぽく清潔感があって、夏の涼しさを感じさせます。
どちらも使い込むうちに手に馴染んでくるところが、また良いものですね。
小さな道具ですが、大切な存在です
柄杓は、お点前の中で目立つ道具ではないかもしれません。でも、あれなしにはお湯も水も汲めません。静かに、しかし確かな役割を持っている道具です。
茶席にそっと置かれた姿を見るたびに、何か、お茶の世界の佇まいそのものを感じるような気がします。
来月から炉の季節に入れば、炉用の柄杓が出番になります。また手に取って、改めて確かめてみたいと思っています。

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