先日のお稽古のあと、稽古仲間の友人がこんなことを言いました。
「扇子って、持ってるのに仰がないのね。最初から不思議だなあって思ってたのよ」
確かに、と思いました。お茶の席で扇子を扇ぐことは、まずありません。では何のために持つのか。私も始めた頃は、よくわからないまま先生に言われた通りにしていました。
気になって、本を引っ張り出して調べてみました。
扇子は「結界」のしるしだそうです
お茶の席での扇子は「結界(けっかい)」の役割を果たしているのだそうです。
自分の前に置くことで、相手との間に一つの区切りをつける。「私の場所と、あなたの場所の境目」とでも言うのでしょうか。
深くお辞儀をするとき、扇子を膝の前に横に置きますね。あの所作にも、きちんとした意味があったのです。言葉を使わずに「礼をつくしています」と伝える、それが扇子の役割なんですね。
師匠は「扇子はお辞儀のときの礼のしるし」とだけおっしゃっていました。その時はふんふんと聞いていただけでしたが、今になって少しわかる気がします。もっと早くちゃんと聞いておけばよかった、と思うことがたびたびあります。
閉じたまま使う、その理由
扇子の形は「末広がり」。先が広がっていくその形が、未来への広がりや幸せの象徴だと言われています。おめでたい場に使われるのも、そこから来ているのでしょう。
でも、お茶の席では扇子は閉じたまま使います。広げることはしません。
閉じた扇子を、静かに前に置く。それだけで、礼の気持ちが伝わる。
言葉を使わなくても所作で伝えられる、というのがお茶の世界の深いところだと、長く続けてきてようやく思います。
置く向きと位置のこと
扇子の置き方にも決まりがあります。
膝の前に少し離して、要(かなめ)を左にして置くのが基本です。私が習っているのは表千家ですので、表千家の作法をもとにしています。裏千家や他の流儀では細かい違いもあるようです。
それでも正直なところ、稽古の場では毎回どこだったかを確認しながらやっています。四十五年続けていても、まだこういうことがあります。なかなか身につきません。
先生に「また違う」と言われながらも、懲りずに通い続けているのが私です。
お茶用の扇子は、ふだんとは別物です
ところで、お茶の席で使う扇子は、普段使いとは別に用意するものです。
表千家では女性は一般的に、小ぶりでシンプルな柄のものを使います。白や薄い色に松や梅の絵が入ったものをよく見かけます。あまり派手な柄は向きません。
男性用と女性用ではサイズも違って、男性のほうが少し大きめです。
お茶を始めたばかりの方は、お稽古場の先生に確認されるのが一番です。流儀によっても、また先生によっても、細かいところが違ったりしますので。
今は風炉の季節で、外はまだ暑い日が続いています。扇子で仰ぎたい気持ちをぐっとこらえながら、今日もお稽古に通っています。
一つひとつの所作に意味がある。それを少しずつ知っていくのも、長く続けているからこそできることかもしれません。また次のお稽古で、確かめてみようと思います。

コメント