昨日、床の間に入れた槿の花が、夕方にはしぼんでいました。朝はあんなにふっくらと開いていたのに、早いものです。
美月がのぞき込んで、
「このお花、もう終わったと?」
と聞きました。
終わったという言葉が少し寂しく聞こえましたが、槿はそういう花なのよ、と答えました。けれど、どうして槿は夏の茶花としてよく使われるのだろう。桔梗も夏のお稽古で見かけますが、秋の七草ではなかったかしら。
気になって、手元の茶花の本を開いてみました。
槿は一日花
槿は「むくげ」と読みます。夏から秋にかけて咲く花で、朝に開き、夕方にはしぼむ一日花です。次々に新しい花を咲かせますので、木全体を見ると長く咲いているように見えます。
茶花には白い槿がよく使われます。白い花びらの中に赤い色があるものを、底紅と呼ぶそうです。
底紅。
何ともきれいな名前ですね。花の底に紅を少し置いたようで、名前を知ると、もう一度近くで見たくなります。
義母は槿を入れる時、開きすぎた花よりも、これから開こうとする花を選んでいました。私は大きく咲いた花のほうが立派に見えると思い、生意気にも、そちらを入れたくなったものです。
「床の花は、花壇の花とは違います」
師匠から度々言われていました。その時は意味がよくわかりませんでした。今になって、咲ききる前の姿には、これからの時間まで入っているのだと思うようになりました。
槿がその日のうちにしぼむことも、茶席では大切なのかもしれませんね。今日の花には、今日しか会えません。
桔梗は夏の花、それとも秋の花?
桔梗は「ききょう」と読みます。青紫色の星のような花です。つぼみが風船のようにふくらむところも面白いですね。
桔梗は秋の七草の一つとして知られています。それなら秋の花と思っていましたが、実際には夏から咲き始めます。ある植物の本には、六月頃から秋にかけて花をつけるとありました。
暦では秋が始まっていても、まだ残暑の中です。桔梗は、夏と秋の間に咲く花なんですね。
以前のお稽古で、槿と桔梗を一緒に入れようとして、義母に止められたことがあります。花が多いほうがきれいだと思ったのでしょう。若かったです。
義母は桔梗を一本手に取り、葉の向きをしばらく見ていました。そして、ほんの少し直しただけでした。床の間に置くと、庭で見た時より静かに見えたのを覚えています。
たくさん入れればよいのではない。
今なら少しわかります。
夏の茶花から感じるもの
茶花の本には名前や咲く時期が書いてあります。それを覚えるのも大切です。けれど槿は一日でしぼみ、桔梗は夏の盛りから秋へ向かって咲く。その花の時間を知ると、床の間での見え方まで変わるように思います。
四十五年以上お茶を続けていても、花の名前にはまだ自信がありません。葉だけになると、なおさらわかりません。似た花も多く、調べるほど難しいです。
それでも、知らなかった名前を一つ覚えるとうれしいです。
今度の風炉のお稽古では、槿を入れる前に、つぼみの具合をよく見てみようと思います。桔梗にも、夏の名残と近づく秋の両方が見えるでしょうか。静かに確かめてみたいです。

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