「知らずに失礼なことをしてしまったら」。茶道のルールを調べる方には、そんな心配もあるのではないでしょうか。お茶を飲んでみたいだけなのに、入る前から覚えることが沢山あるように見えますね。
私は、習う前の方に、何もかも知っていてほしいとは思いません。ただ、あらかじめ支度できることと、その場で教えていただくことがわかれば、少し落ち着いて一服を受けられると思います。寒露を迎える頃のお席なら、菓子に表された菊や色づき始めの葉にも、目を向ける余裕があるとうれしいですね。
茶道 ルール マナーで迷ったら、初めは何を守るのでしょう
ルールとは、その場で守る決まりや約束のことです。茶道では、お茶を差し上げる手順や、客としての振る舞いなどを指して使われます。マナーは、一緒にいる方へ失礼のないようにする心配りや行儀のこと。茶道でよく聞く「作法」は、その振る舞いを具体的な形にしたもの、と考えると入りやすいと思います。三つの言葉には重なるところもあります。
初めての茶席で大切なのは、身支度を整えること、席の案内と勧める言葉を聞くこと、道具を丁寧に扱うことです。わからない時は尋ねて構いません。初心者を受け入れている席なら、作法を全部覚えてから参加する必要はありません。
ただし、どの茶会も同じ支度でよいわけではありません。たとえば東京大茶会は、初心者が道具を持っていなくても参加できると案内しています。こうした用意のある会もありますので、持ち物は行く先の案内で確かめてください。東京大茶会「参加するにあたって」
お茶の席には、流儀から受け継いだ作法と、その会場での約束があります。茶碗の扱いと、受付時刻や撮影の決まりは、同じようには覚えられませんね。作法は少しずつ習えますが、その日の集合時刻は、その案内を見なければわかりません。
服装と持ち物は、席に入る前に整えます
洋服で参加できる茶会なら、着物を用意しなくてもよいのです。畳に座る場合は、座った時に裾が気にならず、前へ手を伸ばしても袖が器にかかりにくい服を選びます。立って鏡を見るだけでは、わからないところですね。
白い靴下や足袋、懐紙などを指定されることもあります。懐紙(かいし)は、お菓子を取ってのせる紙です。使う場面がわかると、なぜ持参するのかも見えてきます。貸していただけるものは何か、足りないものは何かを、出かける前に確かめておきます。
身支度で気に掛けたいのは、このあたりです。
- 指輪や腕時計など、道具に当たりそうなものは外しておく。
- 香水など、強い香りをつけていかない。
- 携帯電話の着信音や通知音が鳴らないようにする。
茶道教室のWAnocotoでも、道具を傷つけないための装飾品への注意や、香り、携帯電話への配慮を紹介しています。WAnocoto「はじめてのお茶会マナー」
指輪は、茶碗が出てから外そうとすると、置き場所に困ります。小さな袋を用意しておけば、席についてから探さずに済みますね。形をきれいに見せることより、こうした支度のほうが先に役立つと思います。
寒露の頃は朝夕の冷えも気になります。羽織ってきた上着や大きな荷物は、置く場所を教えていただきます。正座が難しい方も、申し込みの時に椅子の席や座り方を相談してください。身体の事情を黙って我慢するところまで、礼儀に含めなくてよいと思います。
お菓子とお茶は、勧められた順にいただきます
席に入ってからは、自分だけで先へ進めようとせず、案内を聞きます。座る場所にも役目がありますので、初めてなら教えていただくのが安心です。端の席なら気楽だろう、と自分で決めないほうがよいですね。
一般的な薄茶の席では、勧められた菓子をいただいてから、お茶を受けます。隣の方へ挨拶し、茶碗を丁寧に持ち、正面を避けて飲む扱いがあります。いただき方には流儀の違いがありますから、回す向きなどは、その席の説明に合わせます。東京大茶会「お茶のいただき方」
「茶碗を何回回すか」だけを覚えると、回したことで安心してしまいそうです。私は、それよりも、持っている茶碗が傾いていないか、手が落ち着いているかも大切にしたいと思います。お茶が入っていますから、慌てて動かさなくてよいのです。
飲み終えたあとの飲み口の清め方や、茶碗を戻す向きまで、初めから全部覚えるのは難しいでしょう。わからなくなったら、茶碗を安定させてから、席の方へ小声で尋ねます。持ったまま隣をのぞき込むより、そのほうが落ち着きますね。
また、菓子を食べ切れない事情や、口にできない材料がある場合は、無理にいただこうとせず伝えてください。食べ物に関する心配は、できれば申し込みの時に相談しておきたいです。出されたものを断れないと思っていると、一服を楽しむ前に困ってしまいます。
道具を見る時と、写真を撮りたい時
お茶を飲み終えたあとに、茶碗を見せていただくことがあります。これを「拝見(はいけん)」といいます。模様がきれいだと、よく見えるところまで持ち上げたくなるかもしれません。
畳の席で道具を拝見する時は、高く持ち上げず、低い位置で扱います。世界緑茶協会の案内でも、万一落としてしまった時に傷めないよう、低い位置で見ることが紹介されています。世界緑茶協会「茶会のマナー」
手に取ってよいものか迷ったら、触れる前に尋ねます。床の間の花や掛物も、近くで見たいからと動かすものではありません。自分の物なら何気なくすることも、お借りしているものと思えば、手が止まりますね。
秋の菓子や花は、写真に残したくなることもあるでしょう。撮影してよいかは、その会の決まりを確かめます。許可があっても、ほかのお客様の顔が写らないか、音や光が邪魔にならないかまで気を配りたいです。写真のために器を勝手に移すことも控えます。
私も、きれいなものを見ると残しておきたいと思います。ただ、お茶を出していただいたら、その一服を温かいうちにいただきたい。撮ることを考えている間に、お茶を待たせてしまうのは惜しいですね。
作法を間違えたら、どうすればよいでしょう
順番を間違えたり、挨拶を忘れたりした時は、教えていただいたところで直せばよいと思います。終わった動作を何度もやり直そうとすると、かえって自分でもわからなくなります。
道具を倒した、お茶をこぼしたという時は、すぐに席の方へ知らせます。自分のハンカチで何でも拭こうとせず、どうすればよいか聞いてください。大切な品を傷めずに済むよう、その場の方に任せることも必要です。
私は表千家のお茶を長く続けていますが、人に伝えようとすると、手順ばかり細かく話してしまいそうになります。初めての方にとっては、困った時に誰へ尋ねたらよいかも、大事なことなのですね。
教わった作法と違うものを見ても、すぐ間違いとは決められません。流儀や席の形による違いがあります。稽古では習っている先生の教えを土台にし、よその席では、その席の案内をよく聞く。そのようにして、少しずつ覚えていけばよいと思います。
寒露の頃も、風炉の季節は続きます。初めてのお客様が、季節のお点前まで予習しておく必要はありません。菊の菓子だった、茶碗の肌が温かく感じられた。作法のほかにも、心に残るものが一つあればうれしいです。
私も、教わる方の戸惑いを忘れずに、一服をご一緒できたらと思います。

コメント