「名水点」と書いて、何と読むのでしょう。
私は初めの頃、「めいすいてん」かしらと思っていました。正しくは「めいすいだて」です。名水でお茶を点てるので、そのままの名前のように見えますが、普通の濃茶点前とは少し違います。
残暑の続く風炉の季節。冷たい水を一口いただくことから始まる、夏らしいお点前です。
名水点とは
名水点は、由緒のある湧水などを客に味わっていただき、その水で濃茶を練るお点前です。
名水と聞くと、お茶がおいしくなる水を思い浮かべます。それも大切でしょうが、どこで汲まれた水なのか、どのように伝わってきた水なのか。その由来まで含めて客に差し上げるところに、名水点の面白さがあります。
水はいつものお点前にも欠かせません。それなのに、普段は茶碗や茶入ほど目立たないものです。名水点では、その水が席の大切なごちそうになるんですね。
「名水を点てる」のではありません
名前だけを見ると、名水そのものを点てるようにも思えます。けれども、名水点は水だけをいただいて終わるお点前ではありません。
客は初めに名水をそのまま味わいます。そのあと亭主が、その水を使って濃茶を練ります。水の味を知ってからお茶をいただくため、濃茶の香りや口当たりも、いつもとは違って感じられるのではないでしょうか。
名水点といっても、中心にあるのは濃茶を差し上げることです。ここを私は忘れそうになります。珍しい水や道具だけに目を取られてはいけないんですね。
注連縄を掛けた釣瓶水指
名水点でよく知られているのが、木地の釣瓶水指(つるべみずさし)です。
釣瓶水指は、井戸水を汲む釣瓶を思わせる木の水指です。四角い姿で、上には二枚の蓋があります。名水点では、この釣瓶水指に注連縄(しめなわ)を掛け、紙垂を添えます。
席に入った客は、その姿を見て名水点だとわかります。
水には形がありません。どれほど大切な水でも、器に入れば見た目だけではわからないものです。そこで注連縄を掛け、清らかな名水が入っていることを表すのでしょう。
ただ涼しそうな夏の道具というだけではなかったのですね。
客は名水の由来を尋ねます
名水をいただく時には、正客が亭主へ水の由来を尋ねます。
どこの水なのか。どのような場所から汲んだのか。由来を聞くことで、一碗の水の向こうに、その土地の景色まで浮かんできます。
有名な名水でなければならないのかしら、と気になりませんか?
名水と呼ばれる水には、昔から知られた井戸水や湧水があります。ただ名前が有名であればよいのではなく、亭主がその水を大切に汲み、客にも味わってほしいと思う気持ちがあってこそのお点前だと思います。
水の選び方や扱いは、流儀や先生によって細かな教えが違います。実際のお稽古では、習っている先生の教えを大切にしてください。
なぜ夏に行うのでしょう
名水点は、主に暑い風炉の季節に行われます。
残暑の中で、清らかな水をまず一口いただく。木地の釣瓶水指も、見た目にさっぱりとしています。水の味だけでなく、器の姿や水を注ぐ音からも涼しさを感じてもらうのでしょう。
処暑を過ぎても、九州の昼間はまだ暑いです。それでも朝夕には、ほんの少し秋近しと思う風が混じります。そんな頃の名水は、盛夏の冷たさとはまた違い、過ぎてゆく夏を惜しむ水にも感じられます。
同じ水でも、季節によって受け取り方が変わる。
不思議ですね。
名水点とは、名水をそのまま味わっていただき、その水で濃茶を練るお点前です。注連縄を掛けた釣瓶水指には、清らかな水を大切に客へ差し上げる気持ちが表れています。
次に「名水点」という言葉を見た時は、水のおいしさだけでなく、その水が来た場所にも心を向けてみようと思います。

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