先日のお稽古で、初めて来られた方に「先生、あの小さい竹の筒は何ですか?」と聞かれました。
柄杓の横に置いてある、あれのことです。
そうか、蓋置(ふたおき)のことをご存じないんだな、と思いました。私も最初はそうでした。お稽古を始めたばかりの頃、小さな道具がたくさん並んでいて、どれが何の役目をしているのか、さっぱりわかりませんでした。
蓋置って、何をする道具なの?
蓋置は、お点前の中で柄杓の合(ごう)を置くための小道具です。
柄杓でお湯を釜から汲んだあと、そのままぶらりと持ち続けるわけにはいきません。いったん手から離すとき、柄杓の先の丸い部分――合と呼ぶのですが――を、蓋置の上にそっと置きます。
それだけ?と思われるかもしれませんね。でも、釜の蓋を置くときにも使います。釜の蓋は熱いので、布巾やどこかに無造作に置くわけにはいきません。そのために蓋置があるんです。蓋置という名前はそこから来ています。
たった一つの小道具が、柄杓と釜の蓋、二つの役目を担っているわけです。
素材や形が、こんなにいろいろあるとは
蓋置を長年使っていて、面白いなと思うのは、その種類の豊かさです。
一番よく目にするのは竹の蓋置です。竹を輪切りにしたような形で、節(ふし)のある位置が上になるよう置きます。この節の位置が大事で、「節が上」「節が下」と決まりがあって、私は何度も確認しながら覚えました。
竹以外にも、陶器や金属、木でできたものがあります。形も実に様々です。千切(ちぎり)という形、三人形(さんにんぎょう)、栄螺(さざえ)の形をしたもの、蟹(かに)、火舎(ほや)と呼ばれる香炉に似たもの……数え上げるとキリがありません。
師匠の家には見たことのない形の蓋置がいくつもあって、「これは何ですか」と聞くたびに教えてもらいました。「これは一閑人(いっかんじん)というんですよ」と。井戸のふちに人がつかまっている形で、ユーモラスで可愛らしいのです。
特別な形の蓋置は「七種(ななしゅ)の蓋置」として昔からまとめられていて、茶道の世界では格式のあるものとして扱われます。一閑人もそのひとつです。
風炉と炉で、置く場所が変わります
蓋置は置く場所も決まっています。
風炉(ふろ)のとき――夏のお稽古――は、風炉の前右に置きます。炉(ろ)のとき――冬のお稽古――は、炉の左横です。お点前の種類によっても少し変わりますが、基本はそこです。
今は8月の半ばで、お稽古はまだ風炉の季節です。暑い時季に竹の蓋置を使うのは、なんとなく涼しげで、私は好きです。
炉の季節になると、竹の蓋置は使わなくなります。陶器のものや金属のものが出てきます。同じ「蓋置」でも、季節によって出番が変わる道具なんですね。
炉と風炉の切り替えについては、以前少し書きました。よかったらご一緒に読んでみてください。→ 風炉と炉の違いとは?季節での使い分けのこと
小さな道具だけど、お点前に欠かせない
蓋置は小さいです。手のひらにすっぽり収まるくらいです。
でも、お点前の中での役割はきちんとあって、置く場所も、向きも、手の取り方も決まっています。お稽古を始めた頃、「こんな小さな道具に、そこまで決まりがあるの?」と正直驚きました。
師匠から「お茶の道具はどれひとつ、おろそかにできませんよ」とよく言われていました。その言葉が今になって、じわりとわかる気がします。小さなものも丁寧に扱う。それが積み重なって、お点前の美しさになるのだと思います。
蓋置ひとつ取っても、形の豊かさ、素材の違い、季節との関わりがあって、茶道の世界は本当に奥が深いですね。
まだまだ覚えきれていないことがたくさんあります。次のお稽古でも、蓋置をじっくり眺めてみようと思います。

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