風炉の灰のことを書いてみます。
お茶を知らない方には「灰?」と思われるでしょうが、風炉の中の灰は、茶人が最も心を砕くもののひとつなのです。
灰形(はいがた)というもの
風炉の中には灰が入っていて、その灰を灰匙で美しく形づくります。これを「灰形」といいます。
代表的なのが「二文字押切(にもんじおしきり)」。風炉の中の灰を、前後二つの山にきっちりと押し切った形です。ほかにも丸灰、遠山など、いくつもの形があります。
たかが灰、と思われるかもしれません。でも、ぴしりと決まった灰形は、それは美しいものです。風炉の中に小さな山水の景色ができるのです。
灰形は亭主の力量が出るところ
灰形は、お客様の目に触れます。炭点前のとき、お客様は風炉の中を拝見しますから。
だから昔から「灰形を見れば亭主の力量がわかる」と言われます。柔らかい灰を灰匙一本で形づくるのは、本当に難しい。私は今でも、思うようにできた試しがありません(笑)。
義母は灰形の稽古に厳しい人でした。「灰は一日にしてならず」と。夏の間、毎日灰と向き合ってようやく、人前に出せる灰形になるのだそうです。
灰の手入れは一年がかり
茶の湯の灰は、買ってきてすぐ使えるものではありません。
使い込んだ灰に番茶をかけて色をつけ、ふるいにかけ、乾かして、また使う。これを何年も繰り返して、しっとりと灰匙になじむ「よい灰」に育てていきます。灰は茶人の財産と言われるゆえんです。
昔の茶人は火事のとき、真っ先に灰を持って逃げたという話もあるほどです。本当かしらと思いますが、灰を育てた者としては、わかる気もします。
見えないところに心を尽くす
灰形は、お茶を差し上げるだけなら、なくても済むものかもしれません。でも、見えないところ、細かいところに心を尽くすのが茶の湯なのだと思います。
風炉の季節、もしお茶席で風炉の中を拝見する機会があったら、灰の形にも目を留めてみてください。そこに亭主の何日分もの手間が隠れています。

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